憧憬と回想は夢想の果てへただ進み

千年女優

2002年 今敏監督作品
出演(声優) 荘司美代子、小山茉美、折笠富美子、山寺宏一、鈴置洋孝、飯塚昭三 他

立花源也(飯塚)は元大映スタッフで現在は映像系スタジオの社長
大映撮影所の取り壊しを期に
ドキュメンタリ−作成の為、彼はかつての大女優の藤原千代子(荘司)の元を訪ねる
実は立花は藤原千代子の大ファンで、大映スタッフになったのも間近で彼女を見る為だったという
緊張の中立花はすっかり年老いた(それでも歳相応に綺麗な)藤原にインタビュ−を開始する
彼女の経歴と共に、それまで彼女が歩んだ映画人生を回想する旅に出る

時は昭和初期
老舗の和菓子店の一人娘だった藤原は、特効警察に追われる謎の男
「鍵の君(山寺)」と出会い恋に落ちる
彼は「大事な物が入っている鍵を君に預ける。だからもう一度約束の地で会おう」と言い残し
千代子の前から姿を消し満州へ渡る
同時期に満州でクランクインする映画の子役にとスカウトされた千代子は
渡りに船という感じで映画界に飛び込むが
それは果てしなく続く片思いの第一歩だったわけで…


基本的にラブスト−リ−は嫌いだったんだけど
この映画は例外です(笑)
各所に設けられたほのぼのとした笑い
それでいて切なくも麗しい千代子と「鍵の君」の純愛には結構グッっときました
更には邦画ファンなら一発でネタバレするような映画描写(笑)
確認出来ただけでも「ゴジラ」「君の名は」等のネタがありました
なんというか宮崎アニメとはまた違った意味で
老若男女が楽しめる感じ
かつ、古き良き日本映画をアニメで復活させた感じで凄く面白いです

前述でチラっと言いましたが
結論から言うとこの二人は結ばれません
「もうちょっと」のところで常にすれ違ってしまうんです
それは千代子が死期を迎えるまで続くわけで
そういう意味ではBADENDなのかもしれません
それでも俺はこの映画がハッピ−エンドであると思えてなりません

「だって…私はあの人を追いかけている私が好きなんですもの…」

今際の際にそう言い残し千代子は息を引き取ります
鍵の君が何故に現れないのかはここでは敢えて言いませんが
※「鍵の君」に関してはかなり皮肉な展開になっています
この千代子の台詞に何故かさわやかな印象を持ちました
決して出会えないけれどもそこまで彼を追いかけていけるという感情は
決して無駄なものではないと俺は思いますし
常に先に進めるという行為自体が凄く貴重な事であるように思えるからです

近年のラブスト−リ−で何が嫌だって
例えば「ヒロインが死ぬ」というラストだったとします
※作品名はあえて言いません
彼女(或いは彼氏)との道はそこで終わりで
また明日から違う道に進んでいるわけですよ
「君の事は忘れない、だから俺(私)はまた再出発するんだ」
みたいな
これって俺的にはNGなんですよ
単純に独善なのかもしれないけどね

だから千代子の最後はハッピ−エンド
いくらそれが切なくても、少なくとも俺の中ではハッピ−エンド