その無邪気な力は神の無慈悲にも似て

AKIRA

1988年 大友克洋監督作品
出演(声優) 岩田光央、佐々木望、小山茉美、石田太郎、玄田哲章他

1988年、東京に新型爆弾が投下され第三次世界大戦が勃発した
そして31年後
荒廃しきった旧首都圏に成り代わり、東京湾に作られた洋上メガロポリス
「NEO TOKYO(ネオ東京)」
主人公の金田(岩田)は日々暴走族を率いて電動エンジンの改造バイクを走らせ
喧嘩と暴走に明け暮れる職業訓練学校の生徒
ある夜、いつもの様にネオ東京内をバイクで疾走し
対抗グル−プである「クラウン」との喧嘩の最中
仲間の鉄雄(佐々木)がネオ東京郊外、旧首都高で事故を起こす
彼のバイクを追っていた金田とその仲間達は倒れている鉄雄と炎上するバイク
そして掌に「26」と番号が書いてある謎の小男「26号・タカシ」を発見する
体格は子供ながら顔は年老いた老人そのものの謎の小男タカシ
その容姿に唖然とする彼らの前にア−ミ−(日本国防衛軍)の大型ヘリが何機も下りてくる
状況の全くつかめない金田らをよそに
ア−ミ−の事実上の最高司令官「大佐(石田太郎)」は
タカシと路上に倒れている鉄雄をヘリに回収する
金田は「鉄雄に何すんだよ!」と抵抗するが所詮は少年と軍人
健闘空しくヘリはその場から飛び去ってしまった

鉄雄とは別に反政府分子と勘違いされた金田達
取調べ中の体育館の中で反政府グル−プの少女ケイ(小山茉美)と知り合う
…が、仲間を見つけたケイはその場はあっけなく去ってしまう
それから更に数日後、鉄雄の入院先はいざ知れず
悶々としていた金田の前に突然鉄雄が現れ金田の改造バイクを盗んでしまう
心配し仲間を連れ探しに向かう金田
案の定クラウンのメンバ−に捕まりリンチを受ける鉄雄とその彼女のカオリ
間髪入れずその場に到着した金田によりクラウンのメンバ−は退散
逃げ遅れたメンバ−の一人を金田の目の前で半殺しにする鉄雄
その異常な変貌ぶりに止めに入った金田だったが…

「金田!俺に命令すんじゃねぇ!」

…再会するまでに鉄雄の身に何があったのか
ア−ミ−に回収された鉄雄は、そこで脳の改造を受け
一種の超能力実験体「41号」として生まれ変わっていたのだ
そして鉄雄は己の得た力の巨大さに興奮し文字通りの「暴走」を始めていく…

マトリックスのウォシャウスキ−兄弟を始め、世界中のクリエイタ−に影響を与え
88年当時は日本製アニメとしては世界中から大絶賛された名作「アキラ」です
この映画を見てなければ今の俺は無かったでしょう
88年の日本のアニメを代表すると言っても過言では無く
17年経った今でも映像の新鮮さ、スト−リ−の濃さには素晴らしいものがあります

バイク・不良暴走族・ドラッグ・ノイズ混じりの重いBGM・禍々しい市街描写・超能力
80年代のサブカルチャ−の集大成でもあり
ネオ東京は全体を通して閉塞感と混沌に満ちています
何というか「地底都市」のような印象がかの街にはありました

そして鉄雄の超能力
原作を読むと解るのですが…ちょっとオカルトのウンチク
「アカシックレコ−ド」というオカルト用語があります
これは宇宙の始まりから終わりまでがすでに決定されており
その記録たる存在があるというものでして
予知能力者はそこから「すでに起こった事」としての記録を読む事が出来る
といった感じで超能力に少なからず絡んでいるといわれるものです
この映画では「記憶」というものが重要なファクタ−になっておりまして
劇中のケイの発言に
「人間より小さな虫やトカゲ、もっと小さなアメ−バ−とかにも遺伝子があるわけじゃない?
そのもっと小さな細胞にも遺伝子はあって…それを構成している原子や…宇宙のチリだってそうじゃない?
もしもそれらに遺伝子があるなら…どんな記憶をもってるのかしら…
宇宙の始まりの…そのもっと前の…」
というのがあります
これは暗にアカシックレコ−ドの存在を予見しているのではないでしょうか
そしてその「何かの記憶」の持つ技術
もしかしたら遥か遠い未来の人類が持つはずである能力
鉄雄はそういう存在に人工的に変わってしまったのでしょう

更には鉄雄の夢に出てくる「アキラ」という謎の存在
アキラとは何者であるのか
何故に鉄雄に語りかけてくるのか、何を鉄雄に語りかけようとしていたのか
金田とケイ、鉄雄とアキラ
ネオ東京に訪れた極彩色かつグロテスクなこの戦いに
勝者は果たして存在したのか
そして強大な力を手に入れた鉄雄は果たして救われたのか
物語は俺の口からは語りつくせません
それほどまでにこの物語は濃いのです

少なくとも俺は初めて「AKIRA」を見たとき
極大の衝撃を受けました
色々な意味でこの映画は廃れるべきではありません
それは確信しています